秦野市堀山下に鎮座する堀ノ郷正八幡宮には江戸時代初期に奉納された吊灯籠一対が現存します(写真1参照)。灯籠は六角透燈籠で総高一尺一寸(33cm)、総幅九寸(27cm)です。
火袋の扉には奉掛御寶前、柳澤刑部左衛門と刻印されています(写真2参照)。
江戸時代の天保十二年に編纂された新編相模国風土記稿の堀山下村八幡宮の項には「社内に柳澤刑部左衛門安忠の納し銅燈籠を掛く」との記述があります。
柳澤安忠の息子、吉保は5代将軍綱吉の寵愛を受け大老格に大出世し十五万石甲府城主となった事で良く知られています。柳澤安忠が当地、八幡宮に燈籠を奉納されたきっかけは堀山下村を徳川幕府から拝領していた旗本米倉永時が柳澤安忠の姉と夫婦の関係にあり、当地を訪れた際、八幡宮に祈願され吊灯籠を奉納されたものと思われます。米倉永時の孫、昌尹(まさただ)は5代将軍綱吉より犬奉行(生類憐みの令による犬小屋普請総奉行)を拝命し、その後1万5千石の大名に出世しています。柳澤家と米倉家はその後も養子縁組をして強い絆で結ばれていたようです。
この吊灯籠は柳澤家ならびに米倉家の一族繁栄を見届けた目出度い燈籠であり、堀ノ郷正八幡宮の御利益が実感する貴重な燈籠として当神社に参拝される人々に公開される事を切に望む次第です。
註:写真は堀ノ郷正八幡宮氏子総代大木伸男氏より提供して頂きました。
堀ノ郷正八幡宮